今回お話するのは
最も気高い騎士は誰?
アリーの治療
です。
ファンタジーチックな色が強いですが、ランスロット贔屓がよく出ている部分のお話でもあります。
アリーの治療とは?

アリーの治療とはキャクストン版アーサー王伝説「19巻10~13章」におけるお話です。
アリーというハンガリーの騎士のひどい傷を治すために宮廷に訪れた。
傷を治すにはある条件があった。
この世で最も優れた騎士が傷を調べないといけない
その時アーサー王を含む100人以上の円卓の騎士が参加し、悉く失敗。
最後に参加したランスロットがその傷を治し、全員がランスロットを称えるというお話。
ランスロットが「アーサー王よりも世界で最も優れた騎士である」ということを改めて強調している。
登場人物

このアリーの物語は全ての物語の中で最も登場人物が多いです。
10~13章という短い章でありながら、100人以上の騎士の名前がここに記されているからです。
主な登場人物は
です。
それ以外の騎士達は名前や、ちょっとした紹介がされていますが本当に名前だけです。
物語の流れ

アリーの治療はどのように発生し、どのような経緯で進んでいったのか?
- アリーが受けた傷
- 円卓の騎士の挑戦
- ランスロットの到着と挑戦
- 御前試合
この順番で物語は進んでいきます。
アリーがどうして怪我をして、円卓の騎士達を頼りに来たのか?
章ごとに見ていきましょう。
19巻10章

~19巻10章~
ハンガリーに冒険好きの騎士アリーがいた。
スペインのある領主主催の勝ち抜き戦で、その領主の息子と戦い、アリーは頭に3か所、体に3か所、左手に深手を負った。
相手は死亡したが、その母親が魔法使いであり、アリーにその怪我が治らない呪いをかけた。
「この世で最も優れた騎士がその怪我を調べない限り治らない」
この呪いを解くために、アリーと母親、妹のフィレロリーと従者は7年間各国を巡り、最終的にアーサー王の宮廷にまで訪ねた。
アーサー王はその呪いを解くために、カーライルの草原に110名の騎士を呼び寄せた。
ある決闘の逆恨みで呪いをかけられてしまったアリー。
呪いは「悪化することはあれど、回復はしない」という最悪な呪いであった。
治せる条件は「最も優れた騎士が傷を調べる」だけだが、その騎士を探すのが難しいところ。
当時、円卓の騎士達は世界で最も優れた騎士達であったので、アリーの母親も最後の頼みとして訪れた。
また、アーサー王は「自分から挑戦しよう」と提案しており、あくまでも「私が先にやれば他の者も率先して行う」という考えです。
当時円卓の騎士であれ、最も尊敬されていたのがアーサー王であり、その王が先に始めるのが当然のことと記述されています。
それでも、「私が彼の傷を治すのにふさわしい騎士とは思っていない」と謙遜しまくりです。
先に王がはじめ、最後にランスロットが挑戦するという構図になっています。
19巻11章

~19巻11章~
アーサー王はアリーの傷口に触れたが、治るどころか血を吹き出してしまった。
そこで、次はガウェイン、ガレス、ユーリエンス王、コンスタンティン、モードレッドなどが挑戦したが、全員が悉く失敗した。
その次に、ランスロットの一族の騎士達がやってきた。
ランスロット卿は冒険に出ていたのでその場にいなかったが、彼の一族も全員が失敗した。
その後、招集された円卓の騎士全員がアリーの傷を治そうと試みたが、全員が悉く失敗したのであった。
アーサー王が「誰が一番優れているのか調べる」為に招集したが、この招集した100名を超える騎士の中にはいなかったのであった。
アーサー王をはじめ、110名近くの騎士が失敗してしまいます。
この章では「110名近くの騎士の名前」とちょっとした紹介がされています。
もしガラハッドが生きていれば、アリーを治療できたのでしょうが、残念ながら聖杯探索の際に天に召されています。
また、トリスタンはこの時、「イゾルデの脇に座って竪琴を弾いている時に、マーク王に鋭い槍で刺されて死去した」と明かされます。
面白いのは、この時集まった円卓の騎士は「一人一人が主人公の物語」を持つ騎士達です。
つまり、全員「騎士としては優れている」のだが、アリーの傷を治せる「この世で最も優れた騎士ではない」ということです。
ランスロットの存在というのを際立てるため、ここでは引き立て役として扱われています。
19巻12章

~19巻12章~
全員が失敗し、ランスロットがいないことに不満を述べていると、ランスロットは帰還した。
そこで、全員が試したようにランスロットにも試してほしいと頼まれた。
当初ランスロットは自分は傷口を治すのに相応しい騎士ではないと拒否していた。
それでも、全員に頼み込まれ、ランスロットは神に祈りを捧げながらアリーの傷口を調べた。
すると、傷口はまるで7年間擦り傷を負ったこともないような綺麗な肌になったのである。
アーサー王とアリー、そして騎士達は神への感謝と賛美を捧げ、ランスロットは打たれた子供のように泣き続けた。
アーサー王は回復したアリーに馬上槍試合をしてみてはどうかと尋ね、彼はそれを受けるのであった。
文章ではサラッと流していますが、ランスロットは結構強めに拒否しています。
「気高き王や他の誇り高き騎士達が出来なかったのに、私にできるはずがない」
「命令に背くつもりはないですが、優れているから傷口を調べるという恥知らずなことなど、とんでもないことです。」
「私がお助けできればいいのですが、そのような決して高邁なことができるなど思ってもいないのです。」
めっちゃ拒否っていますが、あくまでも「自分は優れていません」という謙虚さを表しています。
騎士道の「謙虚」という志をここではかなり強調しているように感じます。
結局、ランスロットが治療を成功させるわけですが、何故彼は子供のように泣いたのか?
恐らく、ランスロットは
「自分は優れた騎士ではなく、王こそがこの世で最も優れた騎士である。だが、何故神は私がこの世で最も優れた騎士と認めたのか。」
主君に忠誠を誓うランスロットは、自分が王よりも優れてはいないという気持ちが強かったのでしょう。
優れた騎士として認められた喜びよりも、「認められてしまった」という衝撃を「打たれた子供」と表現したのかもしれません。
19巻13章

~19巻13章~
アーサー王は翌日に、ダイヤモンドを褒美とする馬上槍試合を行った。
100人対100人の試合であったが、有力な騎士は誰も参加はしなかった。
それでも、アリーとラヴェインはこの試合で最も活躍し、双方ともに30人ほどの騎士に勝利。
この活躍ぶりを認められて、円卓の騎士に任命され、領地の一部を与えられるのであった。
そして、ラヴェインはアリーの妹のフィレロリーを愛し、2人は結婚を果たしアーサー王の宮廷で長いこと喜びのうちに暮らしたのであった。
だが、ガウェインの弟アグラヴェインはグィネヴィア王妃とランスロットに恥をかかせようと、日夜その機会を狙ったのであった。
アリーとラヴェインが優れた騎士として大きく活躍し、円卓の騎士に任命された話です。
このお話でランスロットに2人、特にアリーは常に付き従う程慕うようになります。
このお話はハッピーエンドで終わります。
しかし、物語の終盤でこの円卓の騎士崩壊の原因とされている「アグラヴェイン」が暗躍をし始めます。
ですが、アグラヴェインは悪者かといわれたら難しいところです。
「アーサー王への裏切りを暴く」という主君を思った行動なので、非難することはできません。
しかし、この物語を最後に、円卓の騎士は完全に崩壊の道を進んでいくのです。
世界で最も優れた騎士?

世界で最も優れた騎士とは誰なのか?
ランスロットの息子ガラハッドがそうだという人もいます。
聖杯に認められた最も穢れなき騎士
であり、世界で最も優れた騎士にしか抜けない剣を難なく抜いた騎士でもあるからです。
もし、彼が生きていればこのアリーの治療を成功させたのはガラハッドだったのでしょう。
ランスロットは「王女と不倫していた」という点だけを除けば、世界で最も優れた騎士でしょう。
ガラハッドがいなかったので、結果的にランスロットが世界で最も優れた騎士になったといえます。
終わりに

この19巻は
- ランスロットとグィネヴィア王妃の愛を深める
- ランスロットが世界で最も優れた騎士
ということを証明するために物語でもあります。
この後は知っての通り、円卓の崩壊という悲しい結末が待ち構えています。
その原因が「ランスロットとグィネヴィア王妃の愛」であり、ランスロットが世界で最も優れた騎士故に起きてしまったというのも、面白いところです。
宮廷ラブロマンスとしては、ランスロットの行動は最も素晴らしいものとされていますが、今の現代で考えたら「不倫して主君の国滅ぼした騎士」にしか見えませんが‥‥。
とはいえ、このアリーの治療は
ランスロットが神に最も愛された存在
ということを示してくれています。
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