今回お話するのは
五月の花摘み事件
グィネヴィア王妃誘拐事件
です。
王妃誘拐とか死刑通り越して一族郎党皆殺しでしょ・・・・・。
出典: トマス・マロリー「アーサー王物語 5(筑摩書房)」グィネヴィア王妃誘拐事件とは?

グィネヴィア王妃誘拐事件は別名「五月の花摘み事件」とも呼ばれている出来事。
キャクストン版の「19巻1章~9章」に収録されている物語で、ランスロットが主人公となる。
円卓の最強の騎士「ランスロット」が誘拐されたグィネヴィア王妃を救いだす。
物語はランスロットの有名な物語「荷車の騎士もしくはランスロット」が元となっています。
王妃誘拐事件は「ランスロットとグィネヴィア王妃の愛」をより深める物語でもある。
そのような部分を読み取れる記述も数多く存在します。
登場人物

五月の花摘み事件には主に4人の登場人物が現れる。
アリーはこの19巻の最後の「アリーの治療」という物語に登場します。
そして、基本的に19巻は1~3の3人の登場人物で繰り広げられます。
- メリアガーント: グィネヴィア王妃を誘拐
- ランスロット: グィネヴィア王妃を救いだす
物語では2人がこの関係があります。
この二人の戦いがこの物語の中で最も面白いところでもあります。
5月の花摘み事件の流れ

では、この事件の一連の流れを「どのように事件が発生し、終息したのか?」見ていきましょう。
物語の流れは主に以下のようになります。
- 王妃のお出かけと誘拐計画
- 事件発生(王妃誘拐)
- 王妃の救出
- ランスロットと王妃の不貞疑惑
- ランスロットとメリアガーントの決闘
この順番でそれぞれ見ていきましょう。
19巻1章

~19巻1章~
5月になると王妃グィネヴィアは10人の円卓の騎士を連れて花を摘みに出かけた。
時計が10時を過ぎるころまでには戻るということもあり、10人の騎士達は軽装であった。
バグデマグス王の息子メリアガーント卿は王妃を長い間愛していた。
ランスロットが周りにいない、花摘みへのお出かけで誘拐をしようと計画した。
そして、100人以上の武装した兵士を連れて襲う計画をした。
出典: トマス・マロリー「アーサー王物語 5(筑摩書房)」
ここでは、この5月の花摘み事件の始まりの部分があります。
円卓の騎士であるメリアガーントは自分の主であるアーサー王の妻を奪い去ろうと計画。
本来、円卓の騎士に任命してくれた主の妻に恋するのは「絶対に許されないこと」で、「王は見る目がない愚か者」となってしまうからです。
ていうか、普通に考えたら騎士道に反する行為です。
ですが、アーサー王の父のエクター王も略奪婚でアーサーを設けています。(この時は戦争の相手国の妻でしたが)
当時の感覚であれば、欲しいものは力づくで奪い去るのが普通であり、奪われる方が悪いというのがどこかあったのでしょう。
ちなみに、この王妃の護衛の騎士は
- ケイ
- アグラヴェイン
- ブランディリス
- サグラモアー
- ドディナス
- アルディ
- ラディナス
- パーサント
- アイアンサイド
- ペレアス
の10名であり、「王妃の騎士」という武装した王妃の側につく警護集団、SPのようなもの。
ここに選ばれるのは「立派な騎士で名誉を得たいと思う若い騎士」とされます。
王妃の護衛を果たして、名誉ある有名人になるという経験をこの役目で果たします。
19巻2章

~19巻2章~
王妃と護衛の騎士が花摘みにやってくると、森から武装した160人近くの兵士を連れてメリアガーントが現れた。
王妃と騎士達はメリアガーントに「不名誉なことだぞ」と戒めたが、戦闘になった。
騎士達は必死に戦い抜き、40人の兵士を打ち負かしたが敗北。
10名の立派な騎士は深い傷を負い、殺されそうになったので、グィネヴィア王妃は「騎士達を助け、常に側にいること」を条件に連れていかれることとなった。
出典: トマス・マロリー「アーサー王物語 5(筑摩書房)」
花摘みに来たところに、メリアガーント率いる160名もの兵士が誘拐に来ました。
一騎打ちではなく、集団で少数を襲うという騎士道に反しまくりの行為。
そのことだけでなく、
- 王の息子
- 円卓の騎士
- 騎士に任命してくれたアーサー王
- アーサー王の妻である王妃
その全ての誇りや名誉を傷つけることになりますが、そんなことはメリアガーントにとっては関係ありません。
「愛する人を手に入れるためにはどんな卑怯な手段も使う」
反対に、護衛の騎士達は「王妃や自分たちの名誉を辱めるぐらいなら死を選ぶ」と騎士道を重んじています。
だからこそ戦いになり、10人という圧倒的に不利な状況であっても40人という勇敢な敵兵士を倒すことが出来るのでしょう。(命を懸けて王妃を守っているから)
ですが、結局は戦いに敗れてしまい、王妃も自分の大切な騎士が殺されるぐらいなら「最低限の条件」を相手に守らせています。
大切な騎士達が自分の為に命を懸けて戦ったのであれば、自分もまたその騎士達を守れる範囲で守る。
グィネヴィア王妃と騎士たちの間の関係性が改めて垣間見ることもできます。
19巻3章

~19巻3章~
メリアガーントはランスロットを恐れ、事件の発覚を防ぐために部下を王妃の近くにいさせた。
王妃はその隙を狙って、小姓に自分の指輪とランスロットへの伝言を依頼した。
小姓は隙を見せて逃げ、メリアガーントは王妃たちを連れて急いで城に戻った。
そして道中、自分の国で最も優れた弓兵10人を配置、妨害するように命令した。
一方、小姓はランスロットに事件の詳細を伝えた。
ランスロットは深く悲しみ、急いで武装し全速力でメリアガーントの城まで馬を走らせた。
出典: トマス・マロリー「アーサー王物語 5(筑摩書房)」
メリアガーントが恐れていたのが「アーサー王ではなくランスロット」というのが少しポイントでしょうか。
王妃の夫はアーサー王であり、恐れなければならないのはアーサー王自身のはずです。
もちろん、メリアガーントはこの時「ランスロットと王妃が恋仲」というのは知りません。
円卓最強の騎士であるランスロットの「必ず連れ戻しに来る王妃への絶対の忠誠心」を恐れていたのでしょう。
そして、ランスロットも「フランスを支配するよりも、その場で王妃を守りたかった」と話しています。
自分の国、富、名声よりも王妃と共にいるべきだったと悲しんでいます。
富よりも愛、名声よりも愛を重んじた騎士ならではの発言ですが、王妃への深い愛をこの一文で表してくれています。
ちなみに、ここでは「ラヴェイン卿」という騎士が登場します。
ランスロットのことを慕っており、後に円卓の騎士に任命されます。
19巻4章

~19巻4章~
ランスロットは事件現場に到着し、足跡を辿って森に向かったが、そこで弓兵たちに妨害をされ、歩いて城まで向かうことになった。
途中、薪を載せた荷車を見つけ乗せていってほしいとお願いしたが、荷車の御者が「主君メリアガーントの城までは乗せれないよ」と拒否。
ランスロットは御者を殺害、生きていた1人の御者は乗せていくから命は助けてほしいと懇願。
王妃と侍女たちは荷車とその上の騎士を見つけ。
侍女はその騎士を絞首刑に処される騎士と呼び、王女はランスロットと見抜いた。
侍女を咎め、ランスロットに神の祈りを捧げた。
ランスロットは怒りの声で叫び、門番の首を素手で刎ねたのであった。
出典: トマス・マロリー「アーサー王物語 5(筑摩書房)」
ランスロットは優れた弓兵に馬を射抜かれてしまい、歩いていくことになりました。
その後、薪を積んだ荷馬車を運んだ二人の御者に自分を2マイル先の城まで連れて行ってもらうように依頼したが、断られました。
普通ならここで諦めて歩いていくはずですが、相手がメリアガーントの部下であると知ると躊躇わず殺害。(おそらく御者はランスロットがメリアガーントと争っていることを知らない)
そのまま荷馬車に乗せてもらい、城に向かっています。
さて、ここでポイントとなるのは「荷馬車に乗るのは死刑になるような罪人」であるという点です。
騎士は絶対に荷馬車に乗ってはいけません。(名誉を失うどころか、罪人の烙印を押される)
ですが、愛する人を必ず救うという決意を持っているランスロットにとって、そんなこと関係ありません。
この時のランスロットにとって、「名誉、国、騎士としての誇り」よりも「王妃」が大事なのです。
その後荷馬車は城に到着し、王妃の侍女たちはランスロットを見つけますが、
「きっと絞首刑にでもされる騎士なのでしょう」
と誤解しています。
反対に、王妃はランスロットと見抜き
「あなたが荷馬車に乗るなんてよほど苦労されたのでしょうね。」
としっかりとランスロットに対し理解しています。
片やメリアガーントの卑怯で不名誉な行為には怒り、片やランスロットの騎士としてあるまじき行為には理解を示す。
ランスロットへの深い信頼と愛をここでも感じ取ることが出来ます。
19巻5章

~19巻5章~
メリアガーントはランスロットが来たのを知ると、王妃の元まで走っていき、跪いて許しを願った。
王妃も「争いよりも平和の方がいい」とメリアガーントを許した。
一方ランスロットは中庭で怒り狂っていた。
侍女と王妃はランスロットの怒りを鎮め、今回の事件を終わらせた。
10人の騎士達はランスロットを見て喜び、メリアガーントへの処遇は不満はあったが、王妃の為に口には出さなかった。
ラヴェイン卿がお城にやってきた。
出典: トマス・マロリー「アーサー王物語 5(筑摩書房)」
事件はさらっと解決してしまいました。
ランスロットは世界で最も最強の騎士であり、メリアガーントも分かっていました。
それ故にランスロットが来るや否や許しを乞います。
「自分の土地も持ち物も、自分自身もあなたの御意のままに」
と言い、王妃もそれならば面子も立つとして許しています。
その後、ランスロットの怒りを鎮めようとしますが、ランスロットはかなり不満です。
「私の怒りよりもあなたの怒りの方が大きいはずですよ」
とランスロットはいいますが、王妃も
「あの男は心から悔やんでいるから許しただけであり、あの男への好意や愛からでは決してない。不名誉な騒ぎをこれ以上大きくしたくないから和睦しただけ。」
と説得してくれています。
ランスロットも王妃の言うことならば従いますと引き下がり、この事件はここで一旦幕を引きます。
王妃もランスロットも安堵してその日はメリアガーントの城で宿泊することになります。
そして、二人はお互い夜に会う約束をしてしまうのです。
19巻6章

~19巻6章~
その日の夜、ランスロットは王妃に会いに向かった。
王妃の部屋の窓の鉄格子を外し、部屋の中に入った。
部屋には怪我をしていた10人の護衛の騎士達が眠っていたので、2人は静かに寝台に横になり、朝まで素晴らしい時間を過ごした。
朝になるとランスロットは部屋を離れ、メリアガーントが部屋に入ってきた。
この男が寝室のカーテンを開けると、ランスロットが鉄格子を外した際の怪我から出てきた血がシーツや掛け布団に付いているのを見つけた。
メリアガーントは好機と思い、王妃の不貞を訴えると言い放つのであった。
出典: トマス・マロリー「アーサー王物語 5(筑摩書房)」
一難去ってまた一難。
今度はメリアガーントが優位に立ってしまいます。
自分が犯した罪を隠せるだけでなく、王妃に対し優位に立てると非常に喜んでいることが読み取れます。
この部屋には王妃と10人の傷ついた護衛の騎士達が一緒にいて、全員がぐっすり寝ていました。
ですが、騎士達もランスロットが訪れたことに気が付きませんでした。
「王妃はそんなことをしていない」と反論をしたくても、現場証拠がある以上誰も反論できません。
なんといえばいいのか、「誰と寝ていた」という証拠ではないものの、「王妃が誰かと寝ていた」という決定的な証拠がある以上、王妃は火あぶりの刑に処されてしまいます。
それだけ、王妃との不倫は重い罪だったのでしょう。
19巻7章

~19巻7章~
ランスロットは現場にやってきて、事の次第を聞いた。
ランスロットは「寝台のカーテンを勝手に開けるのは恥知らずな行為」と非難。
メリアガーントは「何と言おうが、誰かが王妃と寝ていたのは確かだ」と反論。
そこで、お互いに一騎打ちで決闘を行うことにより、王妃の罪を判断することとなった。
その後、メリアガーントの提案で城の中を案内してもらったランスロットは、卑劣な罠に嵌められた。
落とし穴に落とされてしまい、監禁されてしまった。
王妃と騎士達はランスロットの行方を気にしながらも、アーサー王の元に戻り、事の次第を話したのであった。
出典: トマス・マロリー「アーサー王物語 5(筑摩書房)」
どこまでも騎士道に反するメリアガーント。
絶対に勝てないのならば「決闘の日迄監禁すればいい」という卑怯な作戦にでます。
ランスロットは18m近い落とし穴に落とされてしまいました。
では、ランスロットが何故ついていったのか?
ランスロットは「人に尊敬され、勇気ある者は、危険を少しも恐れないものだ」と考えていたからです。
それ故に、メリアガーントの卑劣な罠に気が付かなかったのです。
王妃と護衛の騎士、ラヴェインはランスロットがいないことを不思議に思っていました。
ですが、「いつもみたいに冒険しているのだろう」と勘違いしています。
アーサー王は
「いつか帰ってくるだろう。何か卑劣な罠に陥らぬ限りはな」
と、どことなく察知しています。
19巻8章

~19巻8章~
罠に落ちたランスロットの元に食事を運んで来る貴婦人がいたが、ランスロットに関係を迫った。
ランスロットは拒み続けたが、決闘当日に貴婦人は「口づけだけでもいいのです」と願った。
ランスロットは口づけだけなら不名誉にならないとして口づけを果たし、落とし穴から出してもらった。
武具を揃え、メリアガーントの城の中で最も良い白い馬を選び、決闘場に馬を走らせるのであった。
出典: トマス・マロリー「アーサー王物語 5(筑摩書房)」
ここではランスロットがいかにして牢屋を抜け出したのか?
という話で、貴婦人が料理や水を運んできて、その度に体の関係を求めています。
ランスロットは絶世の美男子ともいわれていますので、関係を持ちたい貴婦人は自分に有利な状況下で交渉してきます。
しかしランスロット、
「この世にあなた以外の女性がいなくても、あなたを抱きはしないでしょう。」
とかなり辛辣に拒んでいます。女性関係で色々と苦労していたのでしょう。
王妃の為に何でもすると思われていますが、ランスロットは決闘の日に間に合わなかったら、仲間の騎士が代わりに戦ってくれるという「信頼」があるから、今どんな試練であれ乗り越えると言及しています。
愛する女性以外と関係を持つのは気高いランスロットにとって不名誉なことでした。
そこで、貴婦人は妥協案として「口づけだけでもいいのです」と提案します。
ランスロットも「それならば」と口づけをします。
その辺り少しガバガバな気もしますが、この当時であればそこまでなら大丈夫だったんでしょう。
19巻9章

~19巻9章~
処刑上ではグィネヴィア王妃は火あぶりの刑に処されようとしていた。
メリアガーントは勝ちを確信し、ラヴェインはランスロットの代わりに決闘をすると提案。
決闘が始まる直前にランスロットが到着し、グィネヴィア王妃は一旦アーサー王の隣に座った。
決闘が始まると、メリアガーントはあっさり敗北し、命乞いをした。
ランスロットは、自分の体半身を縛って戦うという不利な状況を提案し、相手もそれを承諾。
再度決闘が始まると、ランスロットは華麗な戦い方でメリアガーントの頭を叩き割った。
こうして、卑怯な騎士メリアガーントは死亡し、グィネヴィア王妃の嫌疑は晴れ、ランスロットはよりアーサー王とグィネヴィア王妃から重んじられるのであった。
出典: トマス・マロリー「アーサー王物語 5(筑摩書房)」
アーサー王やラヴェイン、騎士達はランスロットに何かがあったに違いいないとは確信していました。
それ故にラヴェインはランスロットの為に戦いたいと、慕っているからこその申し出をしてくれます。
アーサー王もその優しさに感謝しています。
ですが、ランスロットは何とかぎりぎりで到着し、決闘が始まります。
ただ、ランスロットはかなり怒っており、メリアガーントが何か言う前に雷鳴のごとく突進しています。
ランスロットの心情は「卑怯者の声など聞く気もない」だったのかもしれません。
結局、圧勝してしまいメリアガーントは必死に命乞い。
ランスロットはどうするか王に聞くのではなく、王妃にどうしてほしいか伺います。
ここで、「アーサー王ではなく、王妃に判断を伺っている」のがポイントだと感じます。
グィネヴィア王妃の答えは「殺してしまえ」と読み取ったランスロットは最後の情けとして、圧倒的にメリアガーントに有利な状況での戦いを提案します。
左半分の鎧は外し、左手を後ろに縛り、頭を守る防具は付けないという提案です。
当然相手は喜び、受けて立つといいましたが、ランスロットはあっさり勝利し、メリアガーントを殺害します。
終わりに

このお話は「ランスロットと王妃との愛・王からの信頼」をより深めた大事な話でもあります。
こんな物語があるからこそ、最後の悲劇的な話に大きなインパクトを与えるような感じがします。
だが、ランスロットは「王妃への愛」と「騎士の名誉」を天秤にかけることなく「王妃への愛」を選んだという、「王妃への深い愛」を体現している。
王妃もランスロットの行為を咎めるどころか、「荷車に乗った騎士」と侮辱した侍女を逆にしかるということをしている。
「自分の為に名誉を捨ててまで助けに来てくれた」というラブロマンス的な部分を深めている。(その果てにあったのは円卓の騎士の崩壊ではあるが・・・・。)
間違えてはいけないのは「メリアガーントは確かに、王妃誘拐という間違いを犯した」。
しかし、「ランスロットとグィネヴィア王妃も不倫という大きな間違いを犯した」。
メリアガーントはそれを指摘して、ランスロットによって口封じで殺害されたようなものです。
後の結末をしっていると、ここでランスロットと王妃の罪を公にしておいた方が本当はよかったのではないか・・・。
2人の愛をより深め、円卓の騎士を崩壊に導いてしまった
私はそう感じます。
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